映画やドラマに見る、スペシャルタレント気質

スペシャルタレント (ST) 気質とは、世の中で他の人たちよりも少しだけ生きにくいと感じている人たちのことです。ときに ”発達障がい” などと呼ばれたり、そのグレーゾーンに存在する人も含めます。大事なことは、そのような人たちは決して少なくないことと、特定の分野においては他の人にはない優れた才能を持つことが多いことです。こうしたことから私たちは、彼らの素晴らしい隠された才能が存分に発揮されることを祈り、”特別な才能”を持つ、すなわち ”スペシャルタレント (ST) 気質” と呼んでいます。(家族支援メンタルサポート協会の森薫先生によって名付けられました)

※ ST気質についてはこちら


今回は、このようなST気質をもつ人たちが主人公であったり題材になっている、映画やテレビドラマをご紹介したいと思います。あくまでその多くがフィクションであり極端な表現もあるため、中には不快に感じる人もいるかもしれません。しかし、ST気質的な要素を見つけたり、多面的に見ると新たな発見があったりして、個人的には非常に面白いと思う作品ばかりです。そして、ST気質を持ったキャラクターが、彼らのもつ才能を存分に発揮するところも魅力の一つです。


1. Criminal Minds (クリミナルマインド) 2005年-放送中

これはタイトルの通り、犯罪者の精神的、心理的な分析を行うことで犯人を見つけ出す、クライムサスペンスです。メンバーの一人である、Spencer Reid (スペンサー・リード)は、IQ187をもつ天才です。目に入った対象を映像的に記憶する、映像記憶が非常に優れていたり、驚異的な速読力を持ちます。捜査でもその天才的な能力を生かし、事件を解決に導きます。しかし一方で、周りの空気を読むことが苦手で、自分の関心のあることだけをまくしたてるように話し続けるため、周りからはうんざりされてしまったり、呆れられて無視されてしまうこともあります。こうした彼の特徴は、アスペルガー症候群に似ており、他のメンバーからそれとなく指摘されるシーンもあります。しかしながら、周りの他のメンバーとのやりとりや捜査の経験などから、彼が人間的に大きく成長していく様子も描かれています。そして、そうした彼の”特徴”も周りからきちんと認められ、自分の居場所を確立していくところも良いです。また、Penelope Garcia (ペネロープ・ガルシア)も面白いキャラクターです。


2. Elementary (エレメンタリー) 2012年-放送中 

これは、かの有名なシャーロックホームズの現代版ドラマです。舞台がニューヨークであること、そしてワトソン役にはLucy Liu (ルーシー・リュー)という初の女性を起用しているところが新鮮で興味深いです。Jonny Lee Miller (ジョニー・リー・ミラー)が主役のホームズ役を務め、ユニークで自由奔放なシャーロックホームズを見事に創り上げています。

このドラマだけでなく、多く作品でシャーロックホームズは「変わり者」とされ、一般常識や他人への配慮が欠けるなど、社会性に乏しい一面が強調されています。このElementaryでも、協調性がなく非常識な行動をとったり、直接的な表現で他人を傷つけたり怒らせたり、ときに子どものようにひねくれた行動をとったりする、いわばエキセントリックな言動が目立ちます。しかしながら、非常に優れた五感力や幅広い知識、そして異常なまでの事件への集中力によって、難事件とされるケースを解決に導く、素晴らしい名推理を次々に生み出していきます。こういった特徴はまさに、スペシャルタレント気質といえるでしょう。


3. Amadeus (アマデウス) 1984年

言わずと知れた天才音楽家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの物語です。モーツァルトといえば、ウィーン古典派の巨匠の一人として、数多くの素晴らしい名曲を生み出した偉大な音楽家です。その素晴らしい曲の数々や肖像画からは、物静かで聡明な好青年といった雰囲気を感じる人も多いのではないでしょうか。しかし、モーツァルトの実際の人物像はそういった多くの想像とはかけ離れており、実は下品で非常識な人間だったというのです。まさにこの映画では、天才として美化された姿ではなく、その下品でエキセントリックなモーツァルトが強調されています。そして、このようなエキセントリックなモーツァルトの一面と、彼の奏でる素晴らしい優美な音楽との対比が見事に表現されています。

数多く残るモーツァルトの逸話の中には、”わずか4歳で、習ったこともないヴァイオリンの曲を1回聞いただけで完璧に弾きこなした”とか、”最小の不協和音を指摘し、どの楽器がミスをしたのか、どのキーで演奏すべきだったのか正確に言い当てた”など、その異常とも言える聴覚について多く伝えられています。このような天才的な能力と社会性に乏しい特徴から、モーツァルトは「サヴァン症候群」であったという説もあります。


4. Mary and Max (メアリー&マックス) 2009年

オーストラリアのクレイアニメーション映画です。この映画は実話に基づいており、オーストラリアに住む女の子メアリーと、ニューヨークで孤独に暮らす中年男性マックスとの、温かくも不思議な友情物語です。二人は文通を通し、お互いのことを理解していく中で、少しずつ信頼関係を築いていきます。ところがあることがきっかけでその信頼関係があっけなく崩れてしまいます。お互いに絶望と悲しみに打ちひしがれる日々が続くのですが、やがて、相手を許し受け入れることで、それはかけがえのない友情であることに気づくのです。幼い女の子と中年のおじさんとの友情とはちょっと不思議な感じもしますが、実際にこの映画を見れば、独特の世界観に引き込まれることでしょう。

また、マックスはアスペルガー症候群であり、彼の行動や心情にその特性がよく描かれています。時間や数字にこだわることや匂いや音に敏感なこと、また同時に2ページを左右の目で見て読むことができるなど、アスペルガーの特徴とも言える自分のことをメアリーに書き綴っています。さらに、正直である自分を他人は無神経だと非難することや、人の表情を読むことは難しいなど、この世の中は彼にとって複雑すぎることを嘆いています。だから、彼は友達に囲まれながらシンプルに生きるアニメのキャラクターに羨ましさを感じ、自分もそうなりたいと願っています。ある意味で幼い子どもと同じ世界観を持つのかもしれません。それが最初にこの二人を結びつけた共通点のようです。


5. The Big Bang Theory (ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則) 2007年-放送中

シット・コム (シチュエーションコメディ) といわれる、作中に観客の笑い声などが一緒に聞こえるコメディドラマです。物語は、ルームシェアするオタク青年2人組が、向かいに引っ越してきたブロンド美女に出会うところから始まります。IQが高く優秀な科学者なのに、世間からはオタクとして扱われてしまう残念な彼ら。そんなオタク仲間の友情と恋愛がテーマであり、彼らの日常や人間的な成長ぶりがコミカルに描かれています。現在のところ、シーズン12まで放送が決定している大人気作品です。本国アメリカのみならず、日本を含めて世界各国で人気を集めています。

登場人物の中でも、Sheldon Cooper (シェルドン・クーパー) は特に面白いキャラクターです。彼はIQが高く、幼少期から神童として扱われてきましたが、人の表情を理解したり、場の空気を読むといったことが非常に苦手です。行動や発言も冷静で論理的すぎることがあり、しばしば人を怒らせたり傷つけたりしてしまいます。また、ウソや隠し事ができない正直で繊細な一面もあります。このような特徴から、シェルドンはアルペルガー症候群ではないかと指摘されることも多いようですが、製作陣はシェルドンはあくまで "Sheldony (シェルドン的)" なのだという見解を示しています。アスペルガー症候群とラベリングするのではなく、シェルドンとしての個性を大事にしたいようです。私たちERRCもこの考え方に賛成です。同じアルペルガー症候群だとしても、症状や性格は皆違って当然ですから、それぞれを個性として受け入れることも大事です。


6. Finding Dory (ファインディング・ドリー) 2016年

2003年に公開された大人気映画、Finding Nemo (ファインディング・ニモ) の続編として制作されたアニメーション映画です。お子さんやファミリー向けの映画であると思われがちですが、美しいグラフィックを駆使した海の世界観は圧巻で、大人も十分楽しめるのではないかと思います。また実はこの映画、奥の深い内容でとても重要なメッセージが込められています。

この映画には、多くの他のファミリー向け作品のように、家族や友達との絆や愛が大きなテーマとして描かれています。しかしそれだけでなく、それぞれのキャラクターが何らかのハンディキャップを持っていることにも注目したいところです。ドリーには短期記憶障がいがあります。今言われたことや思いついたことをすぐに忘れてしまうのです。しかしこれが逆に強みになって「まいっか」と開きなおって明るく振る舞うこともできますし、その思い切りの良さで素晴らしい行動力を生むこともあります。ニモとマーリン親子も「ドリーならどうするだろう?」と彼女の直感力や行動力に習って、さまざまなトラブルを乗り越えるシーンも見られます。ドリーの明るさや行動力が信じられないほどの可能性を生むことは、障がいやさまざまな困難を持つ人々に大きな勇気を与えることでしょう。

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